2016年1月2日土曜日

WAKA(4)-何しか来けむ-

 『真幸くあらばまたかへり見む (OCEAN)』が消滅したので、コンテンツを姉妹サイトに復活させる。全部は面倒くさくて無理だろうが、基本的には改名した『真幸くあらばまたかへり見む(Ocean and Forested Mountain)』 http://gorom2.blogspot.com/ )で行なう。当サイトでは、「WAKA」と「国語講座」を再掲載する。「WAKA」は、ユング派が潰され社会から追放されたあかつきに、書き継いでいこうと考えている。長い間の虐待によって生命力があらかた失われてしまったので、歌手にはなれない。芸術には無縁の人種であるくせに自分を芸術家だと思い込んでいるユング派に付き纏われているので、作曲家にもなれなくなったかもしれない。創造の泉が、すっかり萎縮してしまった。当然ユング派は撲滅されるべきである。人間の心を失った連中が、人の心を支配しコントロールしようとしているのである。ユング派を撲滅しておかないと、人類が大変なことになってしまう。

WAKA(4)-何しか来けむ-

見まく欲り吾がする君もあらなくに何しか来けむ馬疲るるに

mi-ma-ku-ho-ri, wa-ga-su-ru-ki-mi-mo, a-ra-na-ku-ni, na-ni-shi-ka-ki-ke-n, u-ma-tsu-ka-ru-ru-ni

 ふたたび“Ohku no Himemiko”の歌である。
 彼女は、弟の“Ohtsu no Miko”が、都のある“Yamato”へ帰るのを見送った(WAKA(3)ーあかとき露にー http://gorom8.blogspot.my/2016/01/waka3.html)。それから何日か経過した。伊勢の国にいると、都の消息があまり伝わってはこない。もどかしい思いで日を送っておられただろう。弟はどうなったのか、無事なのか、それとも・・・・、という思いが日々刻々と募る。
 そのうちに、伊勢の国での任が果てた。これで都へ帰ることができる。弟は、もしかしたら死を免れているのではないか、という一縷の望みとともに“Yamato”へ向けて出発した。

mi-ma-ku-ho-ri, wa-ga-su-ru-ki-mi-mo, a-ra-na-ku-ni, na-ni-shi-ka-ki-ke-n, u-ma-tsu-ka-ru-ru-ni

 第1句(mi-ma-ku-ho-ri)
 “mi”は“see”であるが、その後に希望を表す助動詞(an auxiliary verb)“ma-ku”がつながり、さらに願う意味の動詞“ho-ri”が続いている。これで、“want to see”の意味になる。主語は、第2句目にある“wa”(“I”)である。

 第2句(wa-ga-su-ru-ki-mi-mo)
 “wa”は、一人称の代名詞。“ga”は、“wa”が主語であることを示す助詞(a postpositional particle)である。“su-ru”は、英語の代動詞“do”に相当すると考えられるが、“want to see”のことである。この“su-ru”のような用法は、現代日本語ではあまり見かけない。“want to see”(mi-ma-ku-ho-ri)、“do”(su-ru)の目的語が、次に続く“ki-mi”である。これは、2人称の代名詞とも3人称の代名詞とも考えうるが、弟のことをさしており、その弟はもう既に亡くなっているので、3人称の代名詞と捉えたほうがよいかもしれない。いずれにせよ、たいした違いはないだろう。最後の“mo”は、直前にある語“ki-mi”が今どうなっているのかという説明を導き出す助詞(a postpositional particle)である。第3句にあるように、もはやこの世にはいないのである。

 第3句(a-ra-na-ku-ni)
“a-ra”は、存在する意味の動詞。基本形は古い日本語では、“ari”である。現代語では、“aru”である。後ろに“na-ku-ni”という助動詞(an auxiliary verb)と助詞(a postpositional particle)が複合した語が続くために変化している。“na-ku”は打消の助動詞。“ni”は、逆接条件の助詞(a postpositional particle)である。「~なのに」という意味である。英語で言えば、“even though”か“in spite of”のような意味になると思う。第3句は、「(“ki-mi”も)この世にいないのに」、「この世にいないにもかかわらず」、という意味になる。

 第4句(na-ni-shi-ka-ki-ke-n)
 “na-ni-shi-ka”は、三つの語の連語である。“na-ni”は、「どういうこと」という意味の代名詞。“shi”は、「強め」の助詞(a postpositional particle)。“ka”は、疑問を表す助詞である。「どういうわけで~してしまったのか」「何のために~してしまったのか」という意味になる。この「~」に当て嵌まるのが、後に続く“ki”という動詞である。基本形は、“ku”である。現代語の基本形は、“kuru”である。英語の“come”である。“ki”の後ろの“ke-n”は助動詞(an auxiliary verb)であるが、過去に起きた出来事(つまり、作者が都のある“Yamato”に来てしまったこと)のその理由を忖度しているのである。第4句は、「わたしは、いったい何のために(“Yamato”に)来てしまったのだろうか、来なければよかった」という意味になる。

 第5句(u-ma-tsu-ka-ru-ru-ni)
 “u-ma”は、“horse”。“tsu-ka-ru-ru”は、“get tired”の意味の動詞である。現代語では“tsu-ka-re-ru”という。“ni”は、第3句の“ni”と同じ助詞(a postpositional particle)である。逆接条件であるが、第3句の“ni”も、第5句の“ni”も第4句の“na-ni-shi-ka-ki-ke-n”(どうして来てしまったのだろう)に帰結される。

 一首全体の意味は、
わたしが会いたいと切に願う弟の君も、もはやこの世にいないのに、どうして“Yamato”の都に来てしまったのだろう。ただ馬を疲れさせただけなのに。
という意味になる。

 上の句(前半部の5-7-5)は、現代日本語にはない表現の仕方であるが、日本人としては重厚な響きを持っていると感じられる。それが下の句(後半部の7-7)になると、一転して重々しい響きは失われ、卑近な日常会話で使われる言葉遣いのようになってしまっている。何か、たががはずれたようなのである。もしかしたら弟は死を免れているのではないかという一縷の望みは、都に来てみると打ち砕かれてしまった。弟の死を耳にしたときの衝撃と精神的な苦痛とが、この歌の表現上のたがをはずさせたのであろう。作者は意図しなかったかもしれないが、この思いがけない特異な技巧が彼女の衝撃と悲しみを直接的にわれわれの胸に届かせてくれるのである。
 この姉の弟に対する愛は、恋人に対する感情に見紛うばかりである。しかし、これは紛れもなく肉親の愛だと思う。母の愛に似た、姉の愛である。それは、WAKA(3)ーあかとき露にー (http://gorom8.blogspot.my/2016/01/waka3.html)の歌の第2句“ya-ma-to-e-ya-ru-to”の“ya-ru”(派遣する。“send forth”)という、いかにも命令的な口調に図らずも顔を出している。彼女は幼少時に、母か乳母に倣ってまだ乳飲み子の弟を養育する真似事をして遊んだ経験があったのだろう。
 皇太子に比べて、その異母兄弟が様々な面における能力、容姿、人間的魅力において優れていると感じられ、世間でもそのような評価が一般的であると思われるとき、皇太子の後ろ盾になっている、ゆかりの深い人物は、皇太子の異母兄弟を恐怖と不安の念をもって眺めることだろう。いつかこの異母兄弟は、皇太子に取って代わろうとするのではないかという不安にさいなまれる。このような下地があると、ほんの些細な出来事、取るに足らない噂話が針小棒大に受け止められることにもなろう。中国や日本の歴史において、このような恐怖や不安にもとづく政治的な事件や陰謀がいくつかあったように思う。“Ohtsu no Miko”は、妬みの炎によって焼き滅ぼされたのではないだろうか。姉は、そのような事情を、うすうす感じ取っていたがために、彼女の悲しみはいや増しになったのではないだろうか。
 女性であるが故に、“Ohku no Himemiko”は自分の才能を磨く機会に恵まれなかったのだろう。また、弟が示す文学的才能に目を見張った。そして、それに目を奪われた。そのために、自己のうちにも潜む弟と同じような才能に気がつかなかったのかもしれない。
                           (November 09, 2014)


WAKA(1)ー真幸くあらばまたかへり見むー
http://gorom2.blogspot.my/2014/12/waka1.html

WAKA(2)ー磐余の池に鳴く鴨ー
http://gorom2.blogspot.my/2014/12/waka2.html

WAKA(3)ーあかとき露にー
http://gorom8.blogspot.my/2016/01/waka3.html

WAKA(3)について
http://gorom8.blogspot.my/2016/01/waka3_2.html

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